「ただいま」


「お帰りなさい。いつもより遅かったわね」


 妻が玄関で私から着替えと弁当箱の入ったバックを受け取った。


 バックの中からそれらを取り出し、汗まみれの作業着とシャツを洗濯機へと放り込む。


「一人、辞めてね。その分、残業が長くなった」


「そう。お風呂、空いているわよ」


「里佳子は?」


「今夜はお友達のライブがあるからって」


「遅くなるのか?」


「11時までには帰るって電話があったわ」


「まだ18なんだ。余り遅くならないように言った方がいいんじゃないか?それに、ライブとかだったら、気分が盛り上がってアルコールとかの心配もあるだろう」


「そうね。でもあの子は心配ないわよ。ああ見えてもしっかり者よ。自分の娘を信じて上げなさい」


「信じるか……」


 そうだ、小説の続きはその辺りを書こう……


 現金なもので、我が家に帰った途端、アントニオの事など頭の中から消えていた。