さよなら異邦人

 私は沈んだ気持ちのまま会社を後にした。


『さよなら異邦人』で名前を登場させたアニータ。私が考えていた物語の中の一つの別れが、現実のものになる。


 アントニオのケータイで見た輝くような笑顔が、泣き崩れてしまう……


 そんな事を想像してしまった。


 気持ちが離れてしまっての別れとは違う別れ……


 互いに気持ちを引き摺ったまま、それこそ生木を引き裂くような別れ……


 無常という言葉が、私の心の中からぽろりと零れ落ちた。


 世の中はうまく物事が配分されていて、嬉しい事の後には、喜んだ分の哀しみがやって来る。


 それらは、ちゃんとフィフティフィフティに仕組まれているのだろう。そして、ほんのちょっとでも喜ばしい事が勝っていると感じたら、それはきっとものすごく幸せな事なのかも知れない。


 だが、人間とは愚かしいもので、哀しい事や辛い事をより大きなものと捉えるくせに、ほんのちょっとした喜びを簡単に忘却してしまう。感じる事に鈍感になってしまう。


 幸せな気分、喜びを感じれた気持ちを私達は、もっと大事にしなければいけないのだろう。


 アントニオの事を思いながら、何故かそんな事を考えていた。