さよなら異邦人

 彼は倉庫の片隅で一人ぽつんとしゃがみ込んでいた。


 私が近付くと、目を細めてにっこりと微笑んだ。


「アントニオ、ちょっと話があるんだ」


「はい。なんですか?」


「今日は、このまま帰りなさい」


「帰る?どういう意味?」


「イリーガル・ワーカー……」


 私は英語で不法就労を彼に告げた。がっくりとうな垂れたアントニオは、哀しげな眼差しをし、


「もう少し、お金、稼ぎたかった……。今、ペルー帰っても、仕事無い。家族、みんな、食べる、出来ないね」


「判ってる。判っているが、法律で決まっている事なんだ。真面目に一生懸命働いてくれていた事は、私が一番判っている。だが、このままアントニオを働かせたら、この会社も罰せられるんだ。判るか?」


 彼は無言で頷いた。


「入管と労働局、それと場合によっては警察にも怒られる。怒られるだけじゃない。仕事が出来なくなる。たくさん罰金も取られる。みんなへの給料が払えなくなってしまうんだ」


 アントニオがポケットからケータイ電話を出した。


 私は、彼が家族にでも電話をするのかと思ったが、違った。


 アニータの写真を私に見せた。


「アニータ、日本人のカレシ、せっかく出来た。結婚させたかった……」


 午前中迄の浮き立つ気持ちが、今は重くて切ないやるせなさに変わった。