里佳子は、家に電話を掛ける事を何故か躊躇っているようだった。

僕がもう一度その事を言うと、

「うちは、そんなに心配して無いよ。パパもママも、自分の仕事ばかりに夢中になっているから。それより、加瀬の方が、本当は用事とかあったんでしょ?」

「まあ、用事っちゃあ用事だけどさ。別に今日でなくても構わないし。俺の事は気にすんな」

「加瀬って、どうしてそんなに優しいんだよ」

「俺、優しいか?」

里佳子は照れたような表情をしながら、小さくこくんと頷いた。

「あっ、いっけねえ。風呂のお湯出しっ放しだった」

僕は浴室へ行った。浴槽のお湯は、まだ七分目だった。

本当は、まだ溢れる程溜まっていないと判っていた。何と無くその場の雰囲気から逃げたくなって、風呂のお湯を口実にしただけなんだ。

いつもと違う、何だか弱々しい里佳子の近くに居たら、衝動的にぎゅっと抱きしめてしまいそうだったから。

そんな事をして、あいつに嫌われたりしたら、二学期から隣に座れなくなってしまう。

お湯を止めながら、この前母さんに言われた言葉を思い出していた。

避妊の仕方なんて、俺ちゃんと知らないんだぜ……

ていうか、その時が来ちゃったらどうすんだよ……