私は、止まってしまったページを何度も読み返した。


 そこには、自分の中にだけ、ずっとしまって置いた物語が、中途半端なまま晒されていた。


 昭和50年7月。坂巻千鶴子と行った鎌倉海岸。


 あの日も昼から土砂降りだった。


(佐伯君、もっと身体をくっつけないと、雨で濡れちゃうよ)


(ああ……)


(ごめんね……)


(何が?)


(付き合わせちゃって……)


(俺が自分で行くって決めたんだ。坂巻が謝る事ないよ)


(……ありがと)


(ああ……)


(私の事、忘れないでね。私は…私は佐伯君の事、絶対忘れないから……)



 坂巻、忘れる訳ないだろ……。


 だから、こうして君を書いているんだ……。