さよなら異邦人

「お父さん、里佳子が上がったわよ」


 キッチンから妻の声が聞こえた。居間ではテレビのチャンネルが切り替えられた音がし、お笑い芸人の甲高い声が響いて来た。


 濡れた髪をバスタオルで拭きながら、パジャマ姿の娘がテレビの前にでんと座っている。


「お帰り……」


 テレビの画面を見つめたまま、声だけが私を迎えた。


「うん……。なあ里佳子、この後パソコンが空いたら、父さんにも貸して貰えないか?」


「別にいいけど。母さんが順番になってるよ」


「そうか。じゃあ母さんにも聞いてみるよ」


「うん……」


 たったこれだけの会話をするのに、私はひどく疲れを憶えた。


 我が家にたった一台しかないノートパソコン。買った当初は子供達の勉強の為と思ったが、実際にはブログやらチャットやらで使われ、息子はひたすらネットサーフィンをするだけ。


 自分用にもう一台買おうかとも思ったが、ボーナスはカットされ、給料も実質下げられた状況では、例え中古でも厳しい。


 結局は、今夜もケータイだけで小説を更新するしかないのだろう。