一時期、流行のように数ばかりあったアングラ劇団で、シナリオを書いていた事があった。


 私の作家歴といえばその程度で、現実にはそれで飯が食べて行けた訳ではなかった。


 家内とは高校からの知り合いで、今では夫婦というよりも肉体の一部というような存在になっている。


 家内との結婚を機に、夢よりも生活を優先する事を余儀なくされた。


 小説家の夢を諦めかけていた私が、再び書こうと思い立ったのは、近年ブームとなったケータイ小説のお陰であった。


 メール感覚で小説を書く事に、最初は戸惑いと違和感を感じながらも、気付けばどっぷりと嵌っていた。


 私が投稿している『野うさぎ』というサイトは、ケータイ小説のブームを起こした先駆者とも言うべきで、その知名度は広く知れ渡っていた。


 だが、最近のユーザーは年齢が驚くほど低くなり、私のような五十代などは殆ど存在していないようだ。


 それでも私は忘れ掛けていたものを思い出すかのように、『野うさぎ』で書き続けた。


 三年目の今年、サイト主催の小説大賞へ応募する決心をしたのである。