紗矢花は傷ついた薬指の先を唇へ持ってゆく。

そして軽く指を当て、血を舐める。


艶めいた唇の間から、微かに覗いた赤い舌。

俺はその様子に激しく魅入られてしまう……。


紗矢花に近づき、持っていた本を奪う。


目を見張る彼女に構わず、細い手首を引き寄せ、口づけた。

本が二人の足元へ落ちる。


――あのときと同じ、柔らかすぎる感触……。


空いた手で首の後ろを捕まえ、何度も甘く唇を重ねた。

濡れた舌を忍び込ませると、紗矢花はそれに応え、遊ぶような動きで俺を溶かしてゆく。


強く掴んでいた手首を解放し、彼女と指を絡めかけたとき。

自分の指に硬質な冷たい金属が触れ、一気に我に返った。


それは黒瀬響の指輪――。


名残惜しくも、静かに唇を離す。

息を整え、こちらを見上げてきた紗矢花は、頬を紅潮させていた。


「遼……、やっぱり酔ってるね?」

「……ごめん」


もうとっくに酔いは醒めていたけれど、紗矢花に指摘されたのをいいことにアルコールのせいにしてしまう。


また、彼女の無意識の誘惑に勝てなかった――。