普段は隼斗もくっついてくるので、完全な二人きりとはいかない。

何の邪魔もなく二人だけで居られるのは、ごく稀だ。

紗矢花は自分の兄の友人だという安心感からか、男と二人きりになることを警戒していないようだった。


「――よかったね。仲直りできそうかな?」


作り笑いで声をかけると、紗矢花は照れくさそうにうなずきリビングを出て行く。


数分後、電話を終えて戻ってきた彼女は、白いコートを羽織ってバッグから車のキーを取り出した。


「ごめんね、遼。私ちょっと行ってくる」


紗矢花は申し訳なさそうに眉尻を下げ謝った。

きっと、彼氏に呼ばれたのだろう。


悔しさはあるものの仕方ない。

まだこうして逢えているだけでも幸せと思うしかなかった。


「いいよ。車、気をつけて。……料理作ってくれてありがとう、美味しかった」


笑顔で彼女を見送ったあと。

リビングのテーブルからスマホを取り、着信履歴を表示させた。

その中から一人の女を選ぶ。


「……彩乃(あやの)。今から逢える?」


――紗矢花の、代わりの女……。


電話を切ると同時に、ソファへ投げ捨てた。

自分はいつまでこれを続けるのだろう。

こんなことを続けても、前には進めないとわかっているのに。


窓辺に立ち、カーテンをよけて空を見上げたが、すでに雪は降り終わっていた――。