………複雑だ。

紗矢花はこちらの気持ちに気づいた上で紹介すると言ってるのだろうか。

遠回しの拒絶としか思えない。


「そんなに可愛い人なら、他に狙ってる男がいるんじゃない?」

「そう? それなら、尚更早く目をつけておかないとね。一回、その子を見てみたらいいよ、遼に合いそうな感じがしたの」


話をはぐらかしてみたのに、彼女には効果がないようだ。


「そういえば、遼は好きな人とかいないよね?」

「……え?」


思わず眉をひそめて聞き返してしまう。

そんな質問が出てくるなんて、自分の気持ちに気づいているわけではないのか?


――まさか、試されている? あのときのキスの意味を。


もしここで好きな人がいると言えば、紗矢花のことが好きという意味。

いないと答えれば、あのキスはただの気まぐれ。


紗矢花はソファの上から、じっと自分を見上げてくる。

真っ直ぐな彼女の視線から目をそらし、窓を打つ雨の雫を眺めた。


「――好きな人はいない、かな」


自分の気持ちを隠すために、嘘をつく。