雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

助手席に乗り込み、私も彼に微笑み返す。


「遼、久しぶりだね。最近仕事忙しいの?」


私はシートベルトを締めながら聞いた。


「おかげさまで、前より仕事が入るようになったから、わりと忙しいかな」


低くて穏やかな甘い声。

彼の声を聴いていると、なんだか落ち着く。悩み事も忘れていられる気がする。


「そういえば、彼氏には怒られない? 僕の家に来ても」


車を静かに発進させ、遼は心配そうに言った。


「大丈夫だよ、響は今日はどこかに出かけてるみたいだし」


それに遼に迎えにきてもらったのは、自分の車で行くと遼の家にいることがバレてしまうから。

響は確か遼の家を知っている。

もし家の前に車があることに気づかれたら。きっとまた怪しまれて喧嘩になる。

本当は遼の車に乗ることもダメだと思うけど、目撃される確率はこの方が低そうだった。


「響はたぶん、女の人と会ってると思う。だからいいの」


遼は複雑そうな表情で、ただ前を見つめている。

まるで、遼と会うことは響に対する密かな復讐のようだった。

響も、自分と同じ想いを味わえばいいのに――。