雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

ずっと気になっていたことを、兄へそれとなく探りを入れてみる。


「──彼女?」


兄の前に麦茶を入れたグラスを置くと、新聞から顔を上げて怪訝そうに私を見た。


「あいつに彼女なんかいたか?」

「だって、遼が自分で言ってたよ」

「それってさ。本命の彼女じゃなくて、オンナじゃねーの? オンナならいるぞ、あいつ」

「女……?」


あたしは口を半開きにしたまま固まった。

それは……、体だけの関係の人ということ?

彩乃と名乗ったあの人は、嘘をついていた?

そういえば、遼には自分よりも好みの人がいるとか言っていた気がする。

純粋な子が好みだと。

彩乃さんは遼の好みから外れているから、本命ではないのだろうか……?


「ま、そのぐらいいるだろ。あいつだって一応男なんだし」


麦茶を一気飲みして、兄はまた新聞に視線を戻す。


じゃあ、あのときのキスは、遼にとっては浮気ではなかったということ……。

どうしてか、遼に彼女がいない事実を嬉しく思う自分がいた。