「遼は確かに優しそうだけど……それだけでしょ?」
私の言葉を、陽介は軽く鼻で笑った。
「ホントにそれだけだと思うか? あいつがおまえに見せてるのはほんの一部分……もっと深く知れば、違う部分が見えてくるかもよ」
「違う……部分……?」
そんなの、あるのかな。
いつも優しいだけの遼なのに。
「わりと腹黒だし、怒ったら怖いよ、あの人」
「……大げさに言ってるんでしょ? 怒ったところなんて見たことないし、想像もつかない」
「それはあいつが、紗矢花には良い顔しか見せてないだけ。俺なんか、いっつも睨まれてばっかりだよ。紗矢花の見ていないところで」
「そうなの……?」
嘘くさいなー、と思いながら首を傾ける。
「ま、黒瀬さんのことでウダウダ悩むくらいなら、他の男も視野に入れたらってこと」
陽介は雑誌をラックへしまうと、ふと思い出したように私を振り返った。
「そういえば。弟が就職決まって、春から札幌に住むんだってよ」
「朝陽くんが?」
何も考えずに聞き返した私は、時間を確認するためポケットから出したスマホを取り落としそうになった。
朝陽くんがここに……札幌に来る?
陽介の双子の弟で、高校時代のクラスメイト。
顔立ちはそっくりだけど、陽介とは髪型や性格が全く違うので、双子とはいえ間違われることはほとんどなかった。
地元の高校を卒業してからはほとんど会っていない。4年くらい経つだろうか。
私の──大好きだった人。



