ソファの横にバッグを置き、紗矢花はさっそくキッチンへ回った。
今日はビーフシチューを作ってくれるらしく、買い物袋から取り出したブロッコリーや牛肉、ルーなどがキッチン台へ並ぶ。
自分も棚から大きめの鍋を出し、紗矢花の手伝いに取りかかった。
「ありがとう。私のお兄ちゃんも、遼みたいに手伝ってくれたら助かるのに」
紗矢花は兄への愚痴を小さくこぼす。
会社勤務を何年かしたあと、美術系の専門学校に入り直した紗矢花は、一つ違いの兄・隼斗とアパートで二人暮らしをしている。
料理や掃除・洗濯は彼女が全て担当しているらしい。
紗矢花が隼斗に連れられて初めてこの家に遊びにきたのは、一年ほど前。
隼斗の前では実の妹のように可愛がるふりをしていたけれど。
最初から異性として意識していた。
いつも透き通った瞳で笑いかけてくれる彼女に、会うたびに惹かれていた……。
しかし彼女は、全くこちらの気持ちに気づいていないようだ。