雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~


何やら溜め息をつく陽介のことは気にせず、ペットボトルを捨てにキッチンへ歩く。


「私、そのせいもあって響から離れられないのかもしれない」


どんなに傷つけられても。
手離したくないものがあるから。


ふと、背後に気配を感じ振り返ると──すぐそばに陽介が立っていた。

いつもの眠そうな目ではなく。
何かを企んでいそうな艶っぽい眼つき。


「紗矢花。それって。今までおまえが付き合った男の中で、ってことだろ?」


陽介は八重歯を覗かせて軽く笑った。


「黒瀬さん以外にも、おまえに合う男はもっといると思うけど?」


シルバーの指輪をはめた指が、私の肩を後ろの壁に押しつけ、

「──俺で試してみるか?」

そっと耳元で囁く。


「陽介……。私に変な色気出すのやめてよ」


呆れた声を隠さず、私は彼の腕から抜け出した。


「なんだよ。つまんねぇなー紗矢花は」


陽介はホストっぽいオーラを一瞬で消して、仔犬のような目をして拗ねてしまう。


「でも。俺は本当に、男は黒瀬さんだけじゃないと思う。おすすめは、遼かな」

「遼……?」


私は首を傾げた。彼女がいるのに何を言っているのだろう。