“遼に彼女がいる”というのは本当だった――。


本人に確かめるまで、私はずっとそれを信じることは出来なかった。

“妹”として思ってくれているなら、真っ先に教えてくれても良さそうなものなのに。

遼から直接、報告があったことはない。


あのときのことを思い出すと、不愉快な気分になる。



――それは、遼にキスをされる一週間ほど前のことだった。



「こんにちは。もしかして紗矢花さん、ですか?」


日が暮れた頃、遼の家から出て庭を歩いているとき。

門の陰に、ストレートの長い髪をなびかせた女の人が立っていて、私に話しかけてきた。


「そう……ですけど?」

「遼がいつもお世話になってます」


エレガントに頭を下げてくるので戸惑う。

明るく染めたサラサラの髪が顔にかかり、それをピンクベージュに彩った爪で静かに元に戻していた。

年齢は私より少し上に思える。

ファーのあしらわれた上質な黒いコートをまとった綺麗な大人の女性。

隙なく化粧をしていて、ややきつめの顔立ちだった。どことなく色気が漂っている。


「私、彩乃(あやの)といいます。遼と付き合っています」

「ああ……、遼の彼女さんなんですね」


遼に彼女がいるのは初耳だったから、軽い違和感を覚える。