紗矢花の唇は想像よりも柔らかく、ほのかに甘い苺の味がした。
自分の激しい鼓動を気にする余裕もなく。
一瞬、彼女が体を強張らせたのがわかり、名残惜しくも静かに離れる。
言葉を発するのも忘れて、彼女は呆然と宙を見つめていた。
「ごめん……。昔、一目惚れした子に似ていたから」
咄嗟に嘘をついて誤魔化す。
彼氏がいる紗矢花に、ストレートに本心を伝える勇気はない。
「遼が、今でも忘れられないっていう子……?」
「そう」
その言葉にハッと我に返った紗矢花は、ぎこちない微笑みを返した。
「……なんだ、びっくりした。遼、こんなことしたら彼女が可哀相だよ」
「そうだね。ごめん。――陽介を起こしてくる」
何事もなかったかのように彼女に背を向け、陽介のいる寝室へ向かう。
もう、紗矢花は会ってくれなくなるかもしれないが、後悔はなかった。



