必然的に彼女を抱き留める形になり、柔らかな肌を腕に感じた。


紗矢花を初めて抱きしめた……。

せっかく今まで、我慢していたのに。


「……大丈夫? 貧血?」


不意に訪れた接触に、緊張で声が掠れる。

微かに花のような香りがして、理性がどこかに行きそうだった。


「そうかも……時々目眩がするんだよね」


上目遣いで見上げてくる小柄な彼女。

その身長差を感じるだけでも守ってやりたい気分になる。


邪気がなく透明感のある視線は、一番最初に彼女に出会ったときの、潤んだ瞳を思い起こさせた。


絶対、紗矢花の方は何も緊張していない。

兄に抱き留められている、くらいにしか思っていないはず。


何か悔しくなり、無意識に彼女の頬へ手を伸ばす。

大きな目をさらに丸くして、自分を見上げてくる。


『わからせてあげればいいじゃない』


無責任な彩乃の言葉が、悪魔の囁きとして甦った。


視線が紗矢花のふっくらとした赤い唇に下りていき。

吸い寄せられるように、自分の唇と重なった。