「ひどいよ、遼。これでも最近、大人っぽくなったって言われるのにな」


誤魔化されたことに気づかなかったのか、紗矢花は頬を膨らませ先を行く。

すると一台の車が、かなりのスピードを上げて後ろから近づいてきた。

彼女に手を伸ばそうとし、けれど寸前でやめた。


「――危ない、」

「え?」


車の音に気づいた紗矢花は、急いで狭い歩道の方へ避けた。

大型車はすぐそばを通り、追い越して行く。


本当なら、腕を掴むなり引っ張るなりして守ってやらないといけないところだが、声をかけるだけにとどめてしまった。

紗矢花の身を守ることと、この気持ちを隠すこと、どちらが大事なのかは明白だったはず。


もしも恋人同士だったとしたら、簡単に触れられるのに。

彼女に指一本触れてはいけないという、自分の中での戒めが仇となるなんて──。


大切な人が車にひかれていたらと思うとゾッとする。

後悔の念に駆られつつ、彼女に気づかれないよう深くため息をついた。




家に着き門を閉めたあと、ガレージに停めたホワイトシルバーの車体に汚れがないか確認しながら庭を横切る。


ドアを閉めれば、二人きりの空間。

だというのに、ブーツを脱いだ紗矢花はいつも通り警戒する素振りはなく。自分の家であるかのように、リビングを目指して進んで行く。