「遼、ごめんね。何か暗い話しちゃって」
無理に笑う紗矢花を抱きしめたい衝動に駆られ、目をそらして何とか抑え込む。
自分も陽介のように、さりげなく彼女に触れることができたらいいのに。
「そんなことないよ。こういうときは、誰かに話した方が楽になれる気がするから」
「うん……ありがとう」
彼女はやっと目の前のケーキに手をつけた。
「……難しいね。好きな人の一番になるのって」
窓の外に広がる青空を眺め、儚げにつぶやく。
「そうだね。僕もそう思う」
紗矢花の切なそうな瞳を見ていると、もう限界だった。
気を紛らわすためにキッチンへ紅茶を淹れ直しに行く。
「遼は今日、彼女と一緒に過ごすの?」
紗矢花の前に紅茶を置いたとき、不思議なことを聞かれ戸惑う。
彼女がいるなんて、まだ言った覚えはないのに。
陽介が知らないうちに教えていたのか。
彩乃と一緒にいるところを紗矢花に見られたか。
だが、都合がいいのでそう思わせておく。
「……うん。たぶんね」
「いいな。遼なら彼女を大事にしそうだもんね。一途に彼女のことを想ってそう」
苺タルトを口に運びながら、紗矢花はうっとりと吐息をこぼした。



