「違うって。甘い物食いたい気分じゃないだけ。紗矢花こそケーキなんて食べてたら、ブクブク太って彼氏に振られるんじゃね?」
紅茶を淹れケーキを皿に乗せていると、陽介のからかう声が聞こえてきた。
気になってリビングを振り返れば、あろうことか陽介が、紗矢花の柔らかそうな頬を摘まんでいるところだった。
紗矢花に見えないようきつく睨むと、陽介は「こっわー……」とわざとらしく眉を上げながら紗矢花から手を離した。
陽介は誰に対してもスキンシップが多い方だから油断ならない。
紗矢花に触れる者には、かなり心が狭くなる。
陽介にからかわれた紗矢花は、力なくうつむいているだけだった。
いつもなら負けずに言い返すはずなのに。
「そうだよね……。私、彼に振られるかも」
「あー。ゴメン、冗談のつもりだったんだけどさ」
あまりに深刻な表情で下を向く紗矢花へ、バツが悪そうに顔をしかめた陽介が謝った。
「紗矢花。彼氏と何かあった?」
テーブルに彼女の分の紅茶とケーキを置き、ソファに座って様子をうかがう。
紗矢花はうつむいたまま視線を泳がせた。
「ねえ……。付き合ってる人が合鍵をずっとくれないのは、どうしてかな」
「………」
「今日みたいなイベントごとがある日に限って、早く帰されるのは、変だよね」
その場に重い沈黙が訪れる。



