雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~



12時ちょうどに紗矢花が到着した。

彼女がリビングに入ると空気が一変し、紅茶の香りのように甘く和やかな雰囲気になる。


「あれ? 陽介、今日はスーツじゃないんだね」


紗矢花はそう言いながら、赤いTシャツの上に黒のパーカー、ダメージジーンズというラフな服装の陽介の隣に座る。


「ああ、今日はまだ時間あるから」


ちらりと紗矢花へ視線をやり、陽介は飲んでいたコーヒーをテーブルに置いた。

今日の紗矢花はいつものカジュアルなデニム姿ではなく、モノトーンのワンピースを着ていた。

いつもより化粧も大人っぽい気がする。

全部彼氏のためかと思うと軽い苛立ちが沸き起こった。


「紗矢花。どれがいい? 好きなの選んで」


どす黒い感情を笑顔の中に隠し、冷蔵庫で冷やしておいたケーキの箱を開けて紗矢花に見せる。


「わ。すごい、いろんな種類がある」


甘い物が大好物の紗矢花は、子どもみたいに目を輝かせた。


「じゃあ、コレがいい」


数種類の中から選んだのは予想通り苺タルトだった。

前に買ってあげたときに、一番好きだと言っていたから。


「陽介は?」

「俺はいいわ」

「どうしたの? ダイエット?」