「紗矢花は、誰かにプレゼント渡したの?」


悠里は透明感のある高めの声で質問してくる。


「私は彼氏と男友達にあげたよ。悠里は?」

「私?」


驚いたように悠里が聞き返す。


「私、は……あげたい人がいたんだけど、渡せなかった」


肩をすくめ、苦く笑う。


「えっ、悠里、好きな人できたの?」


私が悠里の細い手首を緩く掴むと、彼女はうっすらと頬を染めた。


「うん、まあね」

「どんな人?」

「えっと、優しそうな人かな」

「うちの学校?」

「ううん、学生じゃないと思うんだ」

「え? 思うんだ、って。あんまりよく知らない人なの?」

「そう。実は……。まだ名前も知らなくて」


悠里はどこか切なそうに目を伏せた。

電車でよく見かける人とか、そんなところだろうか。


悠里とのやり取りを横目で眺めていた天音は、私と目が合うと意味ありげに微笑んで前に向き直った。


「名前、早くわかるといいね」


無難に呟いた私は、パレットに透明水彩の絵の具を絞り出していく。

その日はなぜか調子が悪くて、透明と名のつく絵の具のはずが、微妙に濁った色しか作れなかった。

それとは逆に、悠里の画用紙には透き通った爽やかな柑橘類の果物が描かれていて。

私はその差に溜め息をつくのだった。