雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~


幼なじみのようなものなので、今さら惚れるも何もない。


「俺、このあとバイトあるんだ」

「バイト?」


私は首を傾げ、車を発進させる。


「あれ? 言ってなかったっけ。俺、大学院の仲間に誘われて、ホストのバイト始めたんだよね」

「そうなの? 知らなかった」


左右を確認しながら車道に出る。

陽介なら、そんなバイトも普通にやりそう。見せびらかしてきた腕時計も、どうせ女の子からの貢ぎ物なのだろう。


「紗矢花も俺の働いてる店に遊びに来る?」

「……遠慮しておく。お金払ってまで陽介に会いに行かないよー」

「はは、なんだ残念。──それより紗矢花。どういう理由で、俺まで遼の家に行かなきゃなんないの?」


シートベルトをきちんと締めた陽介が文句を言う。


「別に、一人で遊びに行けばいいだろ?」

「彼氏にダメって言われたの。遼とは二人きりになるなって」

「──はい? 俺とは今、二人っきりになってるのに?」

「それもそうだよね。陽介のことは怪しまれたことないなー、響に信用されてるんじゃない? でも遼のことは信用してないって言ってた」

「……そりゃ有り難い話ですね」


陽介はサイドミラーで、肩にかかる琥珀色のストレートヘアを直しながら相槌を打つ。