兄は、私と響が付き合っているのを、最初から良く思っていない。
「紗矢花をあのライヴに連れて行かなきゃよかったな。バンドやってるヤツなんて、遊び人が多いんだから」
「……お兄ちゃんだってバンドやってるじゃない。それに響はもう、活動してないし」
「俺はいいんだよ。黒瀬さんのグループは人気もあったし、女遊びも相当激しかったらしくてさ」
「……」
私は黙り込んで言葉を探す。
「そんなの……昔はそうだったかもしれないけど、今は違うかもしれないでしょ?」
自分に言い聞かせるために兄へ反論した。
「とにかく、響とは一緒にいられるだけでいいの。だからお兄ちゃんは何も気にしないでね」
紙袋を持って立ち上がり、兄に背を向ける。
「……傷つけられても知らないからな」
そんな兄の言葉を無視し、私はコートを羽織り外へ出かけた。



