雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

お互い、帰る方向は北と南で真逆だから、地下鉄の駅で別れることになる。

私は荷物を持っていない方の手で、遼のコートの袖を小さく引いた。


「ね、遼の家に寄ってもいい?」


横に並んだ私を、彼は無表情に見下ろす。


「……いいよ」


短く答えた彼はどこか不機嫌そう。

乗り場に着き、ホームで待っているときも口数が少なかった。

壁を背にして立ち、線路の方へ目線を落とし何か考え事をしているように見える。

ゆっくりと瞬きをするたび、揺れる長い睫毛が羨ましい。


「紗矢花」

「……えっ。な、なに?」


急に遼がこっちを向いて話しかけてきたので、私は慌てて返事をする。


「あのさ」

「……うん」

「紗矢花は。俺と付き合う気はない?」


彼の切なげな眼差しとぶつかり、私はなぜだか苦しくなって下を向いてしまう。