雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

彼はその言葉だけで察したみたいだった。


「で、返事はしたのか」

「まだ。悩んでるところ」

「……」


考え込んでいるのか、再び口を閉ざす響。
少しは嫉妬してくれてるのだろうか。


「俺は。別れてからずっと、紗矢花のことが忘れられなかった」


彼の言葉に私は息を呑み、顔を上げた。
それは、この数ヶ月間求めていた言葉だ。


「なあ、もう一度やり直さないか。俺はやっぱり紗矢花が一番大事だって気づいたんだ」


“一番”とわざわざ言うなら、当然二番もいるということ。

疑いの眼差しを送るけれど、うつむき加減の響は気づかない。

私はフォークにミニトマトを突き刺して口に放り込む。

酸味の強いその味に、頭の中が急に冷静になってきた。


「じゃあ、証拠を見せてよ。私のことが一番だっていう証拠を」

「は、どうやって?」


鋭く変化させた目つきで私を一瞥し、響はビールを喉に流し込んだ。


「合鍵。くれるなら考えてみてもいいよ」


いくら一番大切だと言ってくれたって、行動で示してくれないと信用できない。

言葉だけを信じて、また傷つくのはもう嫌だから。


「それってさ。まだ俺のこと疑ってるってことだよな。なら俺も信用してもらえるように努力するわ。疑われてばかりだと辛いし」


諦めたような目をして、響は言った。


「合鍵も……そんなに欲しいなら、やるよそのうち」

「そのうちっていつ?」

「だからそれは。時間は掛かるけど、必ず渡すから。それまで待っててくれ」

「……わかった」


曖昧に頷き、私は心の中で溜息をついた。