紗矢花がジンのいる地下室へ下りていったあと、気分転換にピアノでも弾きにいこうと思い立ち、自分も地下へ足を運ぶ。


ピアノの部屋の前にはちょうど誰かが佇んでいて、不審に思い立ち止まる。


柔らかそうな長い髪の女。

ジンの連れてきたバンドのメンバーだろうか。
紗矢花が俺に紹介すると話していた女かもしれない。

確かに紗矢花の言うとおり、人形のように整った綺麗な顔立ちだった。

白い肌に長い睫毛、通った鼻筋。小さなくちびる。

でも……俺にとっては紗矢花の方が何倍も可愛く思える。


部屋の中に何かあるのか、彼女は突然息を呑み後ずさった。

信じられないものでも見たかのように口元を押さえている。

すぐにこちらの存在に気づき視線を向けてくるが、俺とは目を合わせず逃げるように隣の部屋へ入っていった。


ピアノのある部屋の前へ立つと、彼女の驚愕していた理由がようやく分かった。

小さな硝子窓から見えたのは、紗矢花とジンが抱き合う姿だった――。