なぜ遼本人が言ったことと、周りにいる友人から聞く話は一致しないのだろう。

遼には彼女なんかいない、と兄に教えられたときもそうだった。

彼は嘘をついている……?
何かを隠すために。


一目惚れをしたというあの子のことを、今でも密かに好きでいるのだろうか。


「……本当に、好きな人なんているのかな。確かに彼女は作らないみたいだけど」


私が思い返していると、ジンは遠い眼をして低くつぶやいた。


「紗矢花は気づいてないんだな。相変わらず、自分に対しては鈍い……」


僅かに唇を歪め、ジンは扉の向こうへ消えた。

取り残された私は、またピアノの前に座ってしばらく考え込んでいた。

今の意味深な台詞について。

そしてすっかり聞きそびれてしまった、ジンが私に冷たくなった理由を。