雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~


彼に甘えるのは良くないと自分でもわかっているつもり。

近寄りがたくて怖そうな見た目と違って、心は温かい。

だからワガママな頼みをいつも聞いてくれて。つい、その優しさに甘え過ぎてしまう。


「お願い……」


小さく繰り返す私の目に涙が浮かんできて、思ったとおりジンの瞳が揺らいでいく。


――彼が女の涙に弱いのを昔から知ってる。

感情を抑えずにわざと涙を見せた私は、卑怯な女だと自分で思う。


ジンは扉の方へ視線をやり誰もいないのを確認したあと、長身を屈め私に顔を寄せた。

頬にかかる髪がよけられたのを合図に、私はゆっくりと目を閉じる。

同時に、頬骨の辺りへ乾いた弾力のある感触が落ち、すぐに離れていく気配がした。


「……え。それだけ?」


目を開けた私は首を傾げ、ジンへ抗議する。


「こんなの、子ども騙しだよ」


海外だったら、ただの挨拶程度だ。

ジンは溜め息をつき、鋭い眼で私を見下ろした。


「俺に甘えるな。そんなのは遼にでも頼め」


淡々と言い、携帯で時間を確認する。


「遼? ……遼はダメ。変に緊張しちゃうから」

「緊張? 誰にでも平気で甘えるお前が?」


軽く鼻で笑われ、私は口を尖らせる。


「今日のジン、冷たいね」