雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

自然と私の瞳から涙があふれていた。

ジンの広い背中に手を触れ、その温かさにまた涙を落とす。


「紗矢花……?」


ピアノの音が止む。

ジンは私の様子に気づき、椅子から立ち上がった。距離を置くように一歩離れる。


「私、やっぱり別れたことを後悔してるのかもしれない。あんなに好きだったんだから、簡単には忘れられないよね」


別れて少し時間が経つと、幸せだったことばかりを思い出す――。

指で涙を拭ったあと。
ジンに寄り添い……体の重みを預けるように抱きついた。

彼の背中に腕を回し、硬い胸に頭を乗せてみる。

身長差があるせいで、私の頭頂部は彼の肩にも届かないくらいだった。

体格だけでなく抱き心地もやっぱり響と似ている。


――でも。黒いシャツに染み込むその香りは響のものとは違っていて。

もう……こんな風に寄り添えることはないのだと実感してしまう。


「……紗矢花。離れろ」


ジンは体を引き離そうと私の左肩を軽く押す。

けれど私が抱きついたまま力を抜こうとしないので、諦めたのかそのまま片腕で抱き寄せてくれた。