たまに料理を作るのは、響と喧嘩するたび、遼の家に逃げ込んで愚痴を聞いてもらっている、そのお礼。
二人きりとはいっても、やましいことなんて何一つない。
「あいつは隼斗とは違うだろ。血が繋がってないんだし。他の男に飯作るなんて、はっきり言って浮気だぞ」
「浮気……?」
それだけで浮気なの?
私は目を見開いて彼のシャツの裾を掴んだ。
「だいたいお前、よく男の家で二人きりになれるよな? いきなりあいつが襲ってきたらどうするんだよ?」
──遼が私を襲う? あの優しい遼が?
「遼はそんなことしないよ。私のことは妹みたいにしか思ってないと思う」
私は響のシャツの裾を掴んだまま、遼のことをかばった。
「男は好みじゃなくても抱けるんだよ。顔を見なければいいんだから」
呆れた眼差しでひどい言い方をする響は、目にかかった長い前髪を払った。
「響も、女の子と二人きりにくらいなるでしょ?」
「……だから、あれは二人じゃなくて、他にも男友達いたんだって」
うんざりとした溜め息をついて、彼は私の頬に触れる。
「この前だって……部屋に髪の毛、落ちてた」
明らかに私のではない、長くて明るい金茶の髪。
「今回は女物のピアスだし」
どちらも、女の子と二人きりではなかったと、響は言い張っている。
男女のグループでお酒を飲んでいたのだとしても。ベッドにピアスは落ちないはず。



