「でも、あの二人って距離の問題じゃないだろう?
どんなに遠くに離れていても、結ばれる恋はたくさんあるけど、時間が邪魔する恋は無理だと俺は思うよ。
それは、もう人間が越えられないものなんだ」


「そんなことない!!」


一瞬、誰の口から発せられたものかも分からなかった。

しかし、すぐに桜の唖然とした顔を見て、自分だということに気づく。

こんなに大きな声を出したのは、初めてかもしれない。


「タイムマシーンが出来た時点で、もう時間なんて軽く超えてない?
出会いさえあれば、結ばれるよ」

桜は目を丸くしてから、口を大きく開けて笑った。


「百合が珍しく、アツいな」

目尻の涙を拭き取りながら、言った。

「うん、自分でもびっくり」


「だけど、その通りだな。
百合の言う通りだ」


筒状にした台本をポンポンと叩くと、桜は立ち上がり、もう1回通すか、と言った。

勢いをつけて立ち上がると、桜が手を差し出してきた。


「ジュリエット、大丈夫ですか?」

もちろん、私は桜の手を取り、優しい笑みで返した。


「ええ。ロミオ」


君に恋愛感情があったら、と最近つくづく思う。

伝えたい思いも、言って何かが変わるのなら、私の胸の中に留めておく。


ジュリエット、私あんまり好きになれないかもしれない。

距離という邪魔ものもいなければ、時間という強敵もいないのに、何でハッピーエンドじゃないの。

私の方がよっぽど辛くて切ない恋をしてる。


だって、好きな彼には恋愛感情がないのよ?


こんなに優しい笑みをかけられても、
どんなに嬉しい言葉をかけられても、
そこに愛はないの。