「よし、じゃあ明日10時に学校でいいな?」

「は?海っていったら夏でしょ?」

あたしのもっともな意見に、桜はわざとっぽい溜息をついた。


「つまらないな、玲菜は。俺は、常識は嫌いだ」

桜らしい。全く。


と、ひょんなことから海にいくことになったのだが。

良く考えれば、あたしとゲンの初デートである。

何度か四人で遊ぶことは度々あったけれど、やっぱりそこは何か違う。

というか、曖昧にしてはいけない、ような気がするのだ。



「寒い」

と、最初に口にしたのは桜だった。

言い出しっぺのくせに。


「まだ5月だぜ?寒いに決まってる」

「こんなに寒いとは思わなかった」


桜は今にも歯を鳴らしそうだった。

暑さには強くても、寒さには弱いようだ。


「ねえ、川さん。何で海に桜と来ることになったの?」

川さんはかなり厚着をしている。

それでは逆に暑いのではないか、というくらい。

いくらここが東日本の日本海に面しているといっても、季節は一応春だ。


「それは、桜が」と口ごもりながら、桜を見た。

桜はその視線に気づいたのか、何だ?という顔をした。

川さんにした質問と同様のものを聞いた。


「ああ。こっちは、どうなのかなって思ったんだ」

「こっち?」

どっちだ、と思いながら聞いた。


「桜が前に住んでたところよね?」

と、川さんは答えた。

それに桜はうんうん、と頷いた。

少しながら違和感を感じたが、あたしは何も触れなかった。