見兼ねたのか、菜摘が水

割りを持ってカウンター

越しに来た。

「そろそろビール飽たでしょ、はい。」

本当はもうビールは飽き

ていた。さすがは菜摘!

いつの間にかビールを三

杯も飲んでいた。

「瑞紀、飲み過ぎだよ。」

菜摘はそう言って、新し

い灰皿を持ち、また消え

る。

レイと私は沈黙のまま時

間が過ぎる。彼は次に言

う言葉を探しているよう

に思えた。

「まだ、ヒデさんの事忘れなれない…とか?」

「だから、もうヒデの事は関係ないって!」

私はムキになって言う。

「だって、ヒデさんと別れてからだれとも付き合わなかった、って…あんな別れ方したからなかなか忘れられないんじゃないかって…菜摘さんが…。」

レイの言葉が段々小さく

なる。

菜摘ったらそんな事まで

話したの?

私はまたカウンターの女

の子に水割りのお代わり

を頼む。

「それに私−−−。」

ヒデと別れたつもりはな

いの。彼から『別れよう

』とか『もう嫌いになっ

た』とか言われたワケじ

ゃないし。−−−その言

葉は口には出せなかった

。いっそ、そう言われた

方が良かった。そうした

ら今頃、ヒデの事なんか

忘れて新しい恋ができて

いたかも知れない。やっ

ぱり私、ズルズル引きず

っている。