君はガラスの靴を置いていく




千花と付き合ってるのかと訪ねてきたあの時も、
夏期講習に迎えに行って目の前で千花をさらっていったあの夏の日も、

先輩はいつだって千花を恋しそうな目で見てた。

モテるくせに誰とも付き合わずに千花だけを一途に想って。

そんな先輩を無視して千花を奪おうとした俺は最低だと思うよ。本当に。


『心配しなくても千花は先輩を選びますよ。ってか俺はもうフラれたも同然なんで』

これ以上追い掛けても迷惑がかかるだけ。


『フラれた?千花ちゃんがそう言ったの?』

『まぁ…はい。結局俺は千花を怒らせたり泣かせたりしただけでした。すいません。今まで偉そうに』


大口叩いたくせに結果はこれ。

先輩に向ける笑顔をまた俺に向けさせたかったけど全然駄目だった。すると先輩はニコリと笑ってみせた。


『宮澤君、ちょっと目瞑ってくれる?』

『え………』

と反応したのも束の間、勢いよく先輩の右手が飛んできてバコッ!とした音と共に後ろに仰け反った。

先にリアクションしたのは………


『いたたた、人を殴ると自分の手の方が痛いって聞くけどあれ本当だね』

先輩は赤く腫れた右手を痛そうに振っていた。

ジンジンと傷む頬は痛がるほどじゃなく先輩が喧嘩ひとつした事がないのがよく分かる。人を殴ったのもこれが生まれて初めてだろう。


『ごめんね。こういうの得意じゃないんだけど君への怒りはずっとあったから。それにこれが最後だと思うし』

『最後……?』


先輩は深い深呼吸をしてその意味を話し始めた。