君はガラスの靴を置いていく




そうだ。簡単な事だ。

それを面と向かって言われたら俺は千花を諦められる。未練は残っても未練がましく追いかけたりしない。


『……宮澤君には言いたくない。前にもそう言ったでしょ』

『なんで言わないの?簡単だろ』

『そんなの言う必要ないじゃない。だって私は今先輩と付き合ってる訳だしそれが答えでしょ?』


なんで言ってくれねーんだよ。諦めさせてくれないのは千花の方だ。


『じゃ、なんでクローバーの栞まだ持ってんの?』


図書室で勉強してる時も教室移動の時もいつだって千花のノートにはあの栞が挟まっていた。


『そ、それは……気に入ってるだけで……』

『気に入ってても俺があげたクローバーなんだから普通は使わないじゃん。あれからずっと使ってたの?別れたのに?先輩と付き合ってるのに?』


『じゃ……今日から使わない。それでいいでしょ?』


嘘つき。

掴んでる腕からは速い鼓動がずっと脈打ってるくせに。 


『千花は俺にしかドキドキしないって言った。
……………今もなんじゃない?』


『違う、離して』

『嫌だ』

『いいから離してっ!』


腕を振りほどこうとした千花の手を思いっきり引き寄せた。その距離はわずか数センチ。

俺が顔を前に出せばキス出来てしまう距離。

でも、


『しないよ。……つーかしたくても出来る訳ねーじゃん』


俺はそう言って千花をそっと離した。

本当は一瞬頭に血が昇ってしてやろうかと思ったけど出来なかった。ここで躊躇するって事は本気なんだって改めて気づいちゃったよ。くそ。


『ごめん、色々びっくりさせて』

千花はかなり驚いたのかその手は少し震えていた。


『でも俺、中途半端な気持ちでこんな事した訳じゃないから。それだけは分かって』


もうそれしか言えなくて俺は廊下を歩き去った。