『いや、ちょっとね』

俺はあえて何の説明もしなかった。


『ちょっとって………傷だらけだしこんなに腫れてる。何かあったの?大丈夫?』

『あー平気、平気』

『でも………』


千花の手が俺の顔に触れる寸前で、その手を避けてしまった。


『本当に大丈夫だから。ほら、映画に行こ』


俺は千花の寂しそうな顔を見てみない振りをした。


彼氏と彼女だったら、きっとちゃんと説明しなきゃいけないんだと思う。でも明日香の事も喧嘩の事も千花には関係ない事だから。


『………洋平君、手繋いでもいいかな』

俺の歩幅に合わせている千花がポツリと呟いた。

今日は週末でただでさえ人が多かった。以前の俺なら最初から千花の手を握っていただろう。


『うん、いいよ』

俺が差し出した手を千花はギュッと握った。


千花が何故こんな事を言ったのか俺には分かる。

人の心は目に見えないけど、
その心が側にあるかないかは分かるものだから。


映画は最近よくある少女マンガが原作の恋愛ものだった。

俺は宣言していた通り、途中で寝てしまった。



『映画面白かったね。洋平君は寝ちゃってたけど、つまらなかった?』


女子はなんであんなベタな恋愛ものが好きなんだろ。壁ドンとか実際にやられたら怖くね?


『ううん、俺どんな内容でも基本的に寝ちゃうから。でも戦ったりホラー映画の方が好きかな』

『そうなんだ。じゃぁ今度は………』


千花の話しを待たず、俺はある場所に視線を向けた

そこには人だかりが出来ていて、何かの撮影をしてるようだ。