かさの向こうに縁あり

一方で平助は立ち上がり、私に背を向けようとしていた。


さっきの二人の会話を聞いて、私には疑問があった。

「伊東先生」とは誰なのか、だ。


きょとんとした表情で目を合わせると、平助は私の疑問に気づいたように口を開いた。



「ああ、伊東先生のこと?新選組の参謀、伊東 甲子太郎先生のことだよ」



俺が通ってた道場の主だったんだ、と平助は続けて誇らしげに言った。


しかし私は「へー」ぐらいにしか思わない。

どんな人物なのか知らないし……



「じゃ、またね!」



そう言って左手を上げると、彼は障子を静かに閉めて、縁側を走っていった。


どうやら急ぐような用事らしい。



しんと静まり返った部屋で、私は一人布団で朝食を食べ続ける。


薄味の味噌汁を飲み干し、箸を置いて手を合わせた。


カチャン、と小さな音でさえ大きく響く。

「ごちそうさまでした」の一言もない。


ここは現実から切り離された、ほぼ無音の空間のようだった。