エングラム




「シラン」

そう、優しく。
私の名を言えたのだろう。


「…シ、イ…!」

返事をしようとした。
何か答えようとした。

けれどその言葉が精一杯だった。

その言葉だけだったのに、分かってると言うように、一度だけシイが頷いた。

「隠さなくて良いよ。隠されたって分かるんだから」

そう言って、口元を覆っていた腕に触れた。
その手を落とす。

隠さなくて、良いなら──…。

そう思った。


だがそれは一瞬だけだった。


そんな風に甘えちゃ、駄目だ。


ハッとした。


目の前にいたシイと距離を置くために、一歩退いた。


心が読まれていても。
それでも。
上辺だけでも強くなきゃいけない。

「放っておい──」

「花言葉、思い出した」

て、と続けようとする前にシイがふと呟いた。