エングラム




──そういえば、良い花屋見つけたんだ──

あの日の青い空を纏いながら、言ったオウ兄。

「どこの花屋だったの…」

しっとりとしたバラードを聴きながら、少し唸る。
あのビルの近くなのかな。

知っていたような気がするのだけれど、やはり分からない。

しない甘い甘い花の香りが、つんと涙腺をくすぐった。
泣きそうに、なる。

「うわあー」

息を吐くように軽く言って、出そうになった涙をごまかす。


誰にも気付かれない涙など無意味なのだ。
だけど、誰か。
その無意味を意味あるものにしてくれて、すっと孤独を見抜いて。

心に入り込んできた、誰かがいた気がした。



そんなことを考えてその日は終わって、次の日の学校。

委員長、と学ランを纏う背中に呼び掛けた。

「ん、何シランさん?おはよう」

「あーおはよう」

目を擦りながら振り向いた委員長に挨拶を返す。

「委員長、なんか花屋知ってる?」

クラスで普通に気兼ねなく、視線に凍らされることもなく。
そう言える私は、以前の以前に比べればかなりの成長。