エングラム




屋上に出る扉の前。
いつもは閉まっているはずの重い扉が、微かに開いていた。

少し不審に思い、額にシワを寄せる。

だが扉を開くことは躊躇わず、私は力を加えた。

──キィ──

足を外に出す。

風は弱め、天気は良好。

その空の下で

「待ってました」

笑う、彼の姿。

黒い髪が日に透ける。
さっきまで掛けていた黒縁の眼鏡はない。
黒いジャケットを持ちながら、私に言った。

「無論、来ない方が、ね」

低い声と、ちょっと困ったような笑顔。

それを受けとった私は、呼ぶ。

「シイ」

何?と返事したのは、クラスペディアというバンドでドラムを叩く、不思議なチカラを持った少年──オトコ──だった。


「なんでここにいるんですか?」

屋上の高いフェンスにもたれる彼の元まで歩み寄る。

「なんで分かったんですか?」

「ケイがお前がここに来るって言ってたから、全力疾走してきた」

私が先にファミレスを出たのに、と些か落胆を感じた。

私ってつくづく運動神経がない。いや、何もない。