エングラム




一年前。
あの人はどんな気持ちでこの階段を上ったのだろう。

「…あーあ」

溜め息混じりの言葉を落とした。
その声が震えていたことには気付かなかった。


さっきのシイは、あんなこと、なんて形容してたけどさ。

「だって、私には」

あの人しかいないんだ。

あの人が全てなんだ。


あの人は一年前の今日、このビルの屋上から飛び降りた。