エングラム




「──ハァッ…」

バタンと扉を閉めて、肩を上下させ荒い息を整える。

「もうやだ」

扉に背を預け、ズリズリッと背中を落とした。

背中には金属の感触。
埃臭い、灰色の建物。

どっかの誰かがかいたであろう、幾つものカラースプレーの落書き。

何がしたかったんだろう、これをかいた奴は。

こんな誰にも見つからないようなとこで、自己主張しちゃって。

そんなに外の世界は嘘ばかり?
そんなに外の世界は息苦しい?

「……自分のことだ…」

何してるんだろう。
ほんとに私は救いようがないのだ。

そんなの分かってる。
分かってるけど──…。


重い腰を上げた。
灰色の床を歩く。

埃のせいだ、涙目になる。
埃だけのせいだと、自分をうそぶく。

やや奥に入ったところにある、階段。

埃の積もった手摺り。
クズが積もった階段の段差。
虫の死骸もところどころに見える。

タン、タン、と。
私の階段を踏む足音だけが響く。