エングラム




なんで。なんでなんで。
走る私を責めるのは私。

いつだって私は私に嫌われている。
いつだって私は私を嫌っている。

初対面の人たちだったのに。
けど何故か近寄りやすくて──

それが駄目だった。

近寄り過ぎたら好きになる。
近寄り過ぎたら嫌いになる。

だったら、何も思われないようにと。
適度な距離感を今まできちっと測ってきたのに。

──私にはあの人だけだ。

そうだ。そうなのだ。

あぁもう涙が出そうだ。

人と人との間を上手く縫い、駅前を通り過ぎる。

色褪せた建物。
もう使われなくなった中途半端な高さのビル。
表の扉には《立入禁止》の文字。

それには目をくれず、少し通りの裏に入り、建物の脇にある錆び付いた扉の前まで走ってきた。

ガチャガチャッ、と乱暴にノブを捻る。
錆び付いた扉が高い声で叫んで、開く。

私はその中に飛び込んだ。