エングラム




シイの足は直ぐに駆け出さず、少し躊躇うように留まる。

ファミレスにいた少ない客と店員が、時折怪訝な表情でこちらを見ていた。


「──ありがとな」

シイはぽんぽんと、ケイの亜麻色の髪を優しく叩く。

「じゃあユウ、お守りよろしくな」

「はいはい」

ユウが分かってますよとばかりに返事をした。

シイは掛けていた黒縁の眼鏡を、胸ポケットに入れると走りだした。


その姿を見送ってからユウが口を開いた。

「一番手が掛かるのはシイな気がしませんか」

「そうだよねぇ」

ケイは頷く。

「年齢大人だけどさ、あの心はまだまだ子ども…だねぇ」

そして、折角ファミレスに来ていたのに何も注目していないと思い至ると、アイスコーヒーを注文した。

「飲めましたっけ」

ユウ自身もアイスコーヒーを注文すると、ケイに聞いた。

「うん」

しばらくして、二つアイスコーヒーが届く。

ケイはすぐにそれに、ガムシロップを大量に入れた。

「……お約束ですね」

ケイも十分子どもですよ、と小さく小さくユウは呟いた。

アイスコーヒーの中の氷が、カランと音をたてた。