エングラム




──また今日も、何にもない一日が始まる。


始業式の翌日、さっそく6時間の時間割が回りはじめる。


授業中に派手に騒ぐギャルっ子なんかすごい楽しそうで、良いな、と羨ましくさえなる。

休み時間は、本を読むか窓を見るか。

表情の筋肉が固まってきた昼休みに──私に、声が掛けられた。

「なぁなぁ」

「………」

低い声だ。
近くの男子に向けたものだろう、と私は本のページを再びめくる。

「おいって」

その言葉と共に肩がつつかれて、

「な、何ですか」

肩を震わせてから、呼び掛けに答えた。

確か──男子の学級委員長。名前はやっぱり、覚えていなかった。

男子に話し掛けられるなんて滅多にない。
文句でも言われるのかと少し怯える。

彼はワイシャツの衿を立て直し、なぁなぁ、と私に話し掛ける。

「昼休み、もうピアノ弾かないのか?」

ああ、また、違和感。
私は弾いていた覚えはないというのに。
誰に曲を贈ることもないというのに。

「………私、何の曲を弾いていましたか?」