エングラム




聞こえない。自分の声しか。

「ごめんなさい…!帰ります!」

「シラン!」

シイが立ち上がった。

私はその場から小走りで、ファミレスを出た。






私がいなくなったファミレスの一角で、

「…シイ落ち着きなよぉ」

立ち上がり追おうとしたシイの腕を掴んだのはユウ。
最年長の彼を宥めるのは最年少のケイ。

「だって、あれは──!」

シイが何かを言おうとしたのを、ケイのボーイソプラノが遮る。

「シイってほんっと優しくて可哀相だよ」

その声にシイがケイを見る。

笑顔。とびきり可愛い、中身のない笑顔。

「大丈夫。僕には未来が見えてるんだから」

それが自分にじゃなくユウに向けられた言葉だと、捕まれていた腕を放された瞬間に気付く。

ユウの顔を見る。
キツネのような目は、相変わらず笑っている。

「シイは真っ直ぐで良いなぁ」

ケイが自分の手を、蛍光灯に翳した。

シイが何か言おうとした。
読もうとしたでしょう、とケイは笑う。そして続けた。

「──駅前。あの廃ビルの屋上にあの子は向かうよ」