エングラム




「シランこれは?」

ベースでも、バンド譜でもない楽譜。
シイが見せてきたそれを認めると、

「これはっ!」

私は直ぐにその手から奪う。

「……?」

シイが訝しげに目を細めた。

「あの、これは…!」

曲名も秘密にしていたかったのだ。

──約束した、シイに弾くピアノ曲。

心を読まないでくださいオーラを出したから効いたのだろう。
シイは声で尋ねてきた。

「その曲は?」

奪い取ったせいで気まずい雰囲気になるのも嫌だったし、曲名は伏せて白状する。


「…シイに、弾こうと思ってた曲、です…」


ショパンが作曲したピアノ曲だ。
シイは一度目を丸くして、少し嬉しそうな声で言った。

「前に約束した?…覚えててくれたんだな」

シイが私の頭を撫でた。

「家ピアノないからなー…。近くに弾けるとこは」

「ないんですよねー、それが」

だから夏休みに入ってから練習できなくて。
そう続けると、二人で頭を悩ませる。

「まぁ適当に、場所探しとくから」

シイが言って再び楽譜を拾い集める。
すべての楽譜をまとめ片付けを終えて、ぐいと伸びをした。