エングラム




シイは私の落ちた肩を、控えめな音で叩く。

「シランとケイ。それ以外のベースは考えられないな」

技術面じゃないんだよなとシイがぼやくように言った。

ぼやくように。

ケイの音を思い出した。

「………」

妙な沈黙が下りた。

「…ケイ……」

痛ましい笑顔が。
けれどキラキラの亜麻色が。


──右腕と右足を…。

──事故…。


「いや、ケイの名前を地雷にするのは止めだ」

シイがエレキドラムを叩き出す。

「ケイに失礼ですもんね」

哀れみは、立場が上だからこそかけられるもの。
私とケイは同じ立ち位置なんだから。

「…ビートルズのAll My Lovingお願いします」

私が言うと、シイが歯を見せた。

「その選曲、キスせがんでるのか」

今は良いです。
したいと言えばしたくなくはないけど。

「初期のビートルズではポールの代表曲って言われてるからですよ!」

All My LovingはTHE BEATLESの初期に作られたラブソング。

オルタネイト・ピッキングという技法をユウが、少し難しいですね、と言いながら完璧に弾いていた。

ケイはこの曲のランニングベース上手くいかない、とか言いながら綺麗に音を流れ走らせていた。